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だが、日本の女性たちのエロスは、それほど虐げられていたわけではない。宮本常一著『女の世問』によれば、日本が近代化する以前のエロスはおおらかであったという。老若男女を問わず、セックスは食事と並ぶ楽しみであり、女性も男性と同様にそれを楽しみ、野良仕事の合間にエロ話を語り合うことが好まれ、上手なエロ話をするのは愛夫家の証明でもあったという。そして、そういった昔の世相を語る書物には、今でいう婚前交渉やスウィンギング(夫婦交換)のことなどが、おおらかに記載されているのである。
では、近年、日本の男性が女性のエロスを支配した元凶は何であったのだろうか。それは明治以降の近代化の過程で、西欧から「処女尊重」という観念が導入されたことに端を発している。そして、第二次世界大戦が始まる少し前の一九三九年、国民精神総動員運動の一環として「守れ純潔、罹るな性病」という標語が、まことしやかに掲げられたのである。しかも、その影響はいまだに残っている。
したがって、エロスの民主化は、男性中心の男尊女卑や処女尊重の観念を覆すこと、さらには、女性を妊娠という問題から解放した受胎革命から始まったといっても過言ではないのである。女性解放運動の歴史。女性は、古今東西、こういった男性の横暴な考え方に対して、さまざまな形で抵抗してきた。古代ギリシアの喜劇作家・アリストパネスは、女性が女性であることを武器に、つまり、セックス・ストライキによって男性たちに戦争を止めさせるという物語『女の平和』(紀元前四〇〇年頃)を著している。その物語から、当時だけでなく今日までも続く女性の普かいま遍的な一面を垣間見て、女性であるがゆえの強さを知ることができるのである。
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確かに性欲は、食欲や睡眠欲と同じ人間の本能欲求であっても、有史以来、人間の捉えむく方は大きく異なっていた。食欲や睡眠欲が純粋に無垢な生存欲求として、明るみの中で肯定的に語られてきたのに対して、性欲は邪悪性のある欲求として、暗闇の中に隠磁され.ときには否定的に語られてきたのである。
公衆の面前や太陽の真下でセックスすることがはばか潭られてきたことは、その証拠であろう。性欲の充足については、パートナーとの対人関係が重要な問題となる。パートナーの人権を侵害しないために、多くの規範が生まれ、制限が加えられるようになったのである。だが、それは「人権」というような堅苦しい言葉で表現されることだけではない。それ以上にもっとベーシックな部分、つまり、自分とパートナーとの間の心のあり方が問われている。